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東京地方裁判所 平成7年(ワ)12712号 判決 1998年1月23日

神奈川県伊勢原市石田二〇〇番地

原告

株式会社アマダ

右代表者代表取締役

上田信之

右訴訟代理人弁護士

野上邦五郎

杉本進介

冨永博之

右補佐人弁理士

三好秀和

岩崎幸邦

伊藤正和

高松俊雄

東京都渋谷区道玄坂一丁目一五番三号

プリメーラ道玄坂一一〇五号室

被告

東海工機株式会社

右代表者代表取締役

小林正

右訴訟代理人弁護士

三宅正雄

野口政幹

右補佐人弁理士

永田浩一

主文

一  被告は、原告に対し、金六八七八万円及びこれに対する平成七年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨。

第二  事案の概要

本件は、溶接用反転装置に関する特許権(以下「本件特許権」といい、その登録にかかる発明を「本件特許発明」という。)を有する原告が、被告は本件特許発明の技術的範囲に属する別紙物件目録記載の形鋼用万能反転機(以下「イ号物件」という。)を製造販売したとして、被告に対し、本件特許権に基づき損害の賠償を求めた事案である。

被告は、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属することは認めているが、損害額(実施料率の相当性)を争つている。

一  争いのない事実

1  原告は、次の特許権を有している。

発明の名称 溶接用反転装置

出願日 昭和五二年二月一五日

出願番号 特願昭五二-一四五七二号

出頭公告日 昭和五七年二月一三日

出願公告番号 特公昭五七-七八三九号

登録日 昭和五七年九月二九日

登録番号 特許第一一一五八二〇号

2  特許請求の範囲

機台59に回動自在に支承されたリング状の回動体61内に、主材Mを固定自在の固定機構65を備えるとともに、前記回動体61の上部を開閉自在に設けてなる反転回動装置5を複数個並設してなる溶接用反転装置にして、前記回動体61は比較的大きな円弧状の第1円弧体107と第1円弧体107の上部に開閉固定自在に装着した比較的小さな円弧状の第2円弧体109よりなり、前記主材Mの下側部を支持すべく前記第1円弧体107内の下部側に配置した第1固定杆141の両端部を、第1円弧体107内に上下方向に互に平行に固定した一対の案内杆の下部付近に位置調節自在に固定して設け、前記第2円弧体109より下側において主材Mを上側から前記第1固定杆141へ押圧固定するための押圧部材227をほぼ中央部に備えた第2固定杆143の一端部を、前記一対の案内杆の一方に主材Mの長手方向へ退避するよう回動自在かつ案内杵に沿つて位置調節自在に固定して設け、第2固定杆143の他端部を他方の案内杆に係脱自在に設けたことを特徴とする溶接用反転装置。

3  被告は、別紙「イ号物件の販売実績一覧表」記載のとおりイ号物件を製造販売し、その売上額合計は一三億七五六〇万円である。

4  イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属する。

二  争点(損害額)

1  原告の主張

イ号物件は溶接に関する機械であるが、財団法人発明協会発行「実施料率」によると、このような機械については、その販売価格の五パーセントが最も頻度の高い実施料率となつている。被告がイ号物件の販売によつて得た金額は、一三億七五六〇万円であるから、本件特許発明の実施料として六八七八万円が相当である。

2  被告の反論

実施料率は、当該技術の難易、代替可能性の有無、契約各当事者の技術に対する評価等、多種の要素を勘案した上で合意されるものであつて、単に統計的な数字で実施料率の妥当性を主張することは正しくない。本件特許発明は、さして難度の高いものではなく、代替可能な技術も存し、原告自身が本件特許発明の実施品の製造販売に力を入れているものではないこと等を考慮すれば、本件における実施料率は高くても二パーセント程度が相当である。

第三  当裁判所の判断

一1  前記争いのない事実によれば、被告がイ号物件を製造販売したことは本件特許権を侵害するものであり、右侵害行為につき被告には過失があったものと推定されるから、被告は、本件特許の出願公告のあった昭和五七年二月一三日以降のイ号物件の製造販売により原告が蒙った損害を賠償すべき責任がある(平成六年法律第一一六号による改正前の特許法五二条一項及び二項、六八条本文、一〇三条、民法七〇九条、右改正法附則八条一項)。

2  そこで、原告の蒙った損害(通常受けるべき金銭の額)を検討するに、甲九の1ないし4(財団法人発明協会発行の「実施料率(第四版)」)及び弁論の全趣旨によれば、右協会研究所が調査収集し、解析した産業分野毎の実施料率についての調査結果では、本件特許発明は、金属加工機械の技術分野に属するものと解されるところ、昭和四三年から平成三年の全調査期間(昭和五三年から昭和六二年を除く)における右分野の実施契約においては、イニシャル・ペイメントの有無を問わず、五パーセントの実施料率を定めた契約が最も多いことが認められる。

そして、本件は、昭和六〇年から平成七年までの間になされた被告によるイ号物件の製造販売が問題となるところ、右書証に表われている昭和六三年から平成三年にかけて締結された契約の状況をみると、右分野における実施料率の平均値は三・七五パーセントないし四・二二パーセントであり、イニシャル・ペイメントのない最頻値は五パーセントではないが、右期間のイニシャル・ペイメントのない場合についてのデータ数は少なく、平均値に必ずしもとらわれる必要性はないと考えられるし、後者については最頻値件数と五パーセントの件数とは一件の差に過ぎない(なお、右書証中では、昭和五三年から昭和六二年までの間については調査結果が掲げられていないが、昭和四九年から昭和五二年までの間の実施料の平均値は、金属加工機械の分野では五・六八パーセント(イニシャル無)と五・〇二パーセント(イニシヤル有)となつている)。右調査結果は、当事者間の合意によつて定められる実施料であるが、ここで問題とすべきは、被告の違法行為による損害の額として、本件特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する金銭の額の算定のための実施料率であるから、被告の指摘する実施料率の算定要素を考慮に入れても、特許法一〇二条二項にいう「特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに用いる実施料率は、右資料における最頻値である五パーセントとするのが相当と解される。

3  被告は、イ号物件を製造販売したことにより、合計一三億七五六〇万円の売上をあげているから、本件特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額は六八七八万円となり、これが原告の損害であると認められる。

二  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 八木貴美子 裁判官 池田信彦)

物件目録

一、被告が製造販売している「ヘラクスR-2、同R-2W、同R-3、同R-3W、同R-5、同R-5W」と称する形鋼用万能反転機。

物件の説明

本物件は、互いに対抗しかつ離隔して配置した2基を一対として使用するもので、建築、土木用鋼材を反転して下向き姿勢で溶接できる形鋼用万能反転機である。

本物件は、互いに対抗し、かつ離隔して設けた各本体9を備えており、各本体9にはリング状の回動体11がそれぞれ回動自在に支承されている。

各回動体11は、比較的大きな円弧状の第1円弧体65と、この第1円弧体65の上部の開口部において一端部を第1円弧体65の一端部に枢着し、その他端部が三六〇度回転して第1円弧体65の他端部に着脱自在に連結するようにした比較的小さい円弧状の首振りアーム67とを備えてなるものである。

各回動体11における各第1円弧体65内には、前記開口部を間にして対向して設けた調芯シャフト83が回動自在に設けてある。

前記各調芯シャフト83には、主材Mを挟持固定するための第1円弧体の下側部に配置された下部アーム13および第2円弧体の下側部に配置された上部アーム15の両端部が螺合してある。さらに下部アーム13には主材Mを左右から固定するための左右調芯ブロックが左右調芯シャフトに螺合してある。そして、下部アーム13と上部アーム15とは中心振り分け的に、左右調芯ブロックは左右対称に互いに接近離反するように、調芯シャフト83および左右調芯シャフトに螺合してある。

さらに、前記上部アーム15の一端部には、一方の調芯シャフト83に螺合したナット部材127の周溝125に係脱自在にアームジョイント131がジョイント軸133を介して回動自在に枢着してある。この爪部材131は、ロックピン137を介して上部アーム15に固定自在である。

すなわち、上部アーム15の一端部は一方の調芯シャフト83に対して着脱自在で、かつ上部アーム15は主材Mの挿入経路から、第3図に示すように退避自在に設けてある。さらに、前記上部アーム15には、主材Mを下部アーム13へ押圧するたあの押圧部材としてのクランプボルト227が設けられている。

図面の説明

第1図 イ号物件の使用状態を示す斜視図

第2図 イ号物件の正面図

第3図 首振りアーム及び上部アームを主材の挿入経路から退避した状態を示した斜視図

第4図 上部アームの一端部を一方の調芯シャフトに対して着脱自在の構成を示す斜視図

図面番号の説明

9. 本体

11. 回動体

13. 下部アーム

15. 上部アーム

65. 第1円弧体

67. 首振りアーム

83. 調芯シヤフト

83U. 調芯シャフトの上部側(右ねじ)

83L. 調芯シャフトの下部側(左ねじ)

125. 周溝

127. ナット部材

131. アームジョイント

133. ジョイント軸

137. ロックピン

M. 主材

227. クランプボルト

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

別紙

イ号物件の販売実績一覧表

<省略>

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